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スマートファクトリー化における課題

更新日:2022/01/28
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スマートファクトリー化における課題
  1. 「ものづくり白書」によるとスマートファクトリー化が明確な成果に結びつきにくいという思いが障壁
  2. 課題の整理、KPIの設定の共通認識を持つことが大切

なぜスマートファクトリー化が難しい?

インダストリー4.0や第4次性産業革命などが日本でも注目を集めるようになってから5年以上が経過しています。なかでもスマートファクトリー化は、多くの企業が積極的に取り入れています。

しかし、経済産業省などが、毎年発行している「ものづくり白書」の中で、製造業のデータ活用をテーマにして大規模な調査を行いましたが、「製造工程のデータ収集に取り組んでいる」と回答した企業は、2017年をピークに減少傾向になっています。このことから、最近は、スマートファクトリー化の進捗は停滞している印象を受けます。

では、スマートファクトリー化への進捗が停滞している要因は、いったい何なのでしょうか。調査結果から「スマートファクトリー化が明確な成果に結びつきにくい」と感じている企業が多いようです。

スマートファクトリー化を進めて行くには、製造現場が取り組む「製造プロセス」、モノの流れを示す「サプライチェーン」、設計などの「エンジニアリングチェーン」、最後に企業の価値を示す「ビジネス&経営」の4つをうまく連携しながら無理なく進めて行くことが必要です。しかし、現状では、4つの部門が個別にスマートファクトリー化へ向けて、出来るところから進めています。

このことで「成果が思ったほど得られない」や「部分最適化で全体最適化につながらない」となり、結果スマートファクトリー化が明確な成果に結びつきにくいと感じている企業が多いのではないでしょうか。

スマートファクトリー化により明確な成果に結びつけるには、全体像の中で、どういう意味があるかをイメージすることで、今は成果が少ないが、今後、デジタル化を進めていくためのステップとしてとらえて進めて行く必要があります。

また、少なくとも全体像の中で、どういう意味合いがあるのかを意識することで、全体最適化につながっていきます。そのためには、誰がどこで何をするスマートファクトリーなのかを意識し、それぞれの切り口を理解して進めて行くことが求められます。

スマートファクトリーロードマップの重要性

2017年5月に経済産業省が「「スマートファクトリーロードマップ」〜 第4次産業革命に対応したものづくりの実現に向けて 〜」とまとめています。その資料の中で、モノづくりの未来の姿の一つとして、IoTやロボットを活用した「モノづくりスマート化」があげられています。

グローバル競争力の強化に向けて、モノづくりのスマート化を実現することはとても重要と明記されています。しかし、一方、企業においては、モノづくりのスマート化への対応は必要と認識していても、スマート化に向けた戦略立案を⾃ら進めることができていないことが課題となっています。これは、どのようにスマート化を進めていけばよいのか明確になっていないことが要因として考えられます。そこで、スマート化の実現を目指すには、スマート化の方向性やレベルを示すことが必要とされています。

これらの企業が抱えている課題の解決案の一つとして、経済産業省では、「スマートファクトリーロードマップ」を紹介しています。このスマートファクトリーロードマップの特徴としては、IoTなどを活用した「モノづくりのスマート化」に方向性やレベルなどを、どのように整理していけばよいのかを、レベルに分けて整理されています。

また、資料のなかでは、スマートファクトリーロードマップに沿ってスマートファクトリー化を実現し、成果を挙げている「旭鉄工株式会社」の事例を紹介しています。この事例では、1時間当たりの生産個数が7割上昇したことで、当初、計画していた生産ライン2本の増設が不要になったことで、1億4千万円分の設備コスト削減ができたなど、スマートファクトリー化が明確な成果に結びついています。

参照元:スマートファクトリーロードマップ│経済産業省(https://www.chubu.meti.go.jp/b21jisedai/report/smart_factory_roadmap/roadmap.pdf

ロードマップの俯瞰ステップ

導入ステップ 成功のポイント 内容
Step.1: スマート化の構想策定 経営者が強い意思を持ち、トップ主導で推進する 経営課題の解決手段としてスマート化を理解し、経営者自らが強い意思を持って トップ主導でスマート化を推進する。
トップ自らアイディアを出すなど、継続して関与する。
スマート化の目的・目標を明確にする ⾃社のビジネス戦略・課題=スマート化の目的を明確にし、目的の優先順位をつける。
スマート化による投資効果を測定できる数値目標を設定する。
スマート化の内容、対象範囲、レベルを明確にする スマート化の内容や、スマート化の対象とする、ものづくりのプロセス、業務範囲、規模、 レベル、コスト等を明確に定義する。
必要に応じて、外部の専門家などから助言を得る。
責任、役割を明確にし、組織内で合意形成する 初期の段階から、IT部門やユーザ部門など、組織内の関係者と目指す姿の共通認識を図り、
責任や役割を合意形成して推進体制を構築する。
データを提供する側にとってのうれしさを組み込む 従業員が監視されていると感じないようにしたり、サプライチェーン上の企業にもメリットがあるようにしたり、
管理する側とデータを提供する側がwin-winとなるうれしさを組み込む。
Step.2: トライアル・ システム導入 全体最適を念頭に置きつつ、ステップを踏んで導⼊を進める 部分最適の先の、将来、実現を⽬指す全体最適を想定しつつ、⾃社の課題解決に合致したシステムを選定し、
できるところから1つずつステップを踏んで導入を進める。
データを絞り込み、収集を⾃動化して、負担を軽減する 収集するデータや分析事項を絞り込んだり、シンプルなデバイスで、データ収集・蓄積の作業を減らしたり自動化することで、
ユーザ部門がシステムを活用しやすいものにする。
初期の段階では、機能を絞り込みスモールスタートで始める 初期の段階では、真に必要な機能を絞り込んで、IoTツールを内製開発したり、既存設備を改良することなくIoTツールの後付けで対応したりして、
小規模から始める。
トライアルを繰り返し、改善を図りながら完成を⽬指す リスクが⼩さく、導⼊効果が得やすいところから取り組む。実証、評価、改善を、短いサイクルで繰り返し、
価値あるデータを⾒極めるとともに、システム・運用の完成を⽬指す。
中⻑期の段階では、標準ツールを活⽤して拡張させていく 中⻑期の段階では、専⾨のIT企業やメーカーと協力体制を作り、セキュリティの強化やスマート化の対象範囲の拡張性を考慮して、
標準規格に対応したIoTツールを利⽤する。
Step.3: 運⽤ 導⼊効果を共有し、従業員のモチベーションを向上させる 導⼊効果の定量的なモニタリングを継続して行い、小さな導入効果であっても早い段階から共有することで、
従業員のモチベーションを向上させ、運用の定着につなげる。
ものづくりとIoTを理解した人材へと育成・意識改⾰を図る IoTツールを積極的に活用するように意識改⾰し、ものづくりとIoTの両方を理解した人材を育成する。
簡単な設定の調整などは社内で対応し、絶えず改善をしていく。

スマートファクトリーロードマップでは、経営課題の解決手段をとらえ、経営者主導でスマート化を推進していくことが重要とされています。また、各部門は、自社のビジネス戦略・課題に沿って目標を明確化した上で、自社だけではなく、IoTやロボット技術にたけているが企業とも協力をしながら進めていくことが大切です。

各目的ごとのロードマップ

次にスマートファクトリーロードマップを、品質向上、コスト削減、生産性の向上、製品化・量産化の期間短縮、人材不足・育成など、目的別にロードマップを分解していくことがスマートファクトリー化を進める上で大切なことです。

「品質の向上」に向けたロードマップ

スマート化の目的 レベル1 レベル2 レベル3 主な対象企業層
有益な情報を見極めて収集して状態を見える化し、
得られた気付きを知見・ノウハウとして蓄積できる
(データの収集・蓄積)
膨⼤な情報を分析・学習し、目的に寄与する因子の抽出や、
事象のモデル化・将来予測ができる
(データによる分析・予測)
蓄積した知見・ノウハウや、構築したモデルによる将来予測を基に
最適な判断・実行ができる
(データによる制御・最適化)
スマート化の対象プロセス
不良率の低減 ヒトの作業内容(作業手順、作業結果など)をセンシングすることで、
作業内容を収集・把握できる。
ポカミスが発生した際、ヒトへ早期に通知できる。
過去のポカミスを分析する ことで、
ポカミスが発生しやすい 作業⼯程を特定できる。
分析結果に基づいて、従業員を人材育成したり、設計を変更することで、
ポカミスの発生を抑制し、不良率を削減・最小化できる。
企業層 素形材加⼯企業
設備・金型供給企業
組み立て企業
プロセス 生産
品質の安定化・ばらつきの低減
(加工誤差の最⼩化、加工性能の
最大化)
設備にセンサを取り付けて搭載してモニタリングすることで、
加工寸法などの製品の品質データと設備の加工条件・設定値を収集・把握できる。
収集したデータを分析し、品質のばらつきの要因を特定することで、
加工誤差や加工性能の改善につながる加工条件・設定値をモデル化できる。
構築した加工改善モデルを用いて、設備の加工条件・設定値を最適化することで、
加工誤差を最小化したり、加工性能を最大化できる。
企業層 素形材加⼯企業
プロセス 生産
品質の安定化・ ばらつきの低減
(作業者の作業ばらつきの最小化)
各従業員の作業状況(作業 動線、作業時間、作業内容など)をセンシングすることで、
各従業員の作業状況を収集・把握できる。
収集したデータを分析し、作業のばらつきの要因を特定することで、
作業の改善につながる作業条件をモデル化できる。
構築した作業改善モデルを用いて、作業状況を改善、 均⼀化することで、
作業のばらつきを最小化できる。
企業層 素形材加⼯企業
設備・金型供給企業
組み立て企業
プロセス 生産
設計品質の向上 製品にセンサ・通信機能を搭載することで、
製品の使用状況や使用環境のデータを収集・把握できる。
収集したデータと設計データとを関連付けて因果関係を明らかにすることで、
品質・信頼性の向上につながる設計仕様・生産方法を分析できる。
分析結果に基づいて、設計仕様・生産方法を修正・改善して最適化することで、
製品の品質・信頼性を向上できる。
企業層 設備・金型供給企業
組み立て企業
プロセス 製品企画、開発・設計
製品稼働、サービス提供

ここまで整理しても、冒頭にお話ししたような自社経営層がスマートファクトリー化は明確な成果に結びつきにくいという思いを抱いていては、スマートファクトリーが進むはずもありません。

明確に、どんな課題に対し、KPIを設定し、どんなソリューションを導入し、それによってどんな変化を得られるのかを、全員が共通認識を持てるか否かが大事になります。

課題の整理やゴール、ソリューションの導入に関しては、当サイトで取材に協力していただいた「株式会社リンクス」のような企業の力を借りるとといいでしょう。

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