インダストリー4.0とは、「第4次産業革命」を意味するドイツ発の国家プロジェクトのことです。ドイツ政府主導で、産官学が三位一体となって推進しています。
製造業にAIやIoTといったIT技術を取り入れ、製造業を改革しようとすることを指しており、その中心となっているのが、「スマートファクトリー(考える工場)」です。
スマートファクトリーは、デジタルデータ活用により業務プロセスの改革、品質・生産性の向上を継続発展的に実現する工場と定義されています。
稼働状況や製造実績をデータ化し可視化することを目指すことで、リアルタイムで改善ポイントを発見し対処することが可能になります。早期の問題解決は、致命的なトラブルを未然に防ぎ、生産ラインを停止させる必要が生まれません。また、各工場や拠点間でのデータ共有も簡単になるため、課題の抽出や生産計画の練り直しなどを素早く客観的に行うことができるようになります。
これこそが、スマートファクトリーの定義の意味するところです。
ドイツの製造業では、従業員数500人以下程度の中小企業が全体の7~8割を占め、それぞれの工場が保有している製造ラインも小規模なものとなっています。
インダストリー4.0以前は、高い技術力はあるものの、工場の柔軟性や汎用性が低く、1つの製造ラインで生産できる製品は決まっており、製造する製品を変更する場合にはラインの改修が必要でした。しかし、インダストリー4.0以降は、工場の拡張性・汎用性が高くなり、製造ラインとシステムに対応するものであれば、ある程度は改修なしでの製造が行えるようになりました。
つまり、中小の工場1つ1つがそれぞれに工程を担い、複数の工場が1つの工場のように動くことができるようになったということです。
これにより、マイスター制に代表されるような高い技術力を残しつつ、ドイツの国全体の製造業のレベルアップを目指すことができるというわけです。
日本では、2017年に「Connected Industries」と呼ばれる概念が経済産業省より提唱されてから、政府主導のインダストリー4.0への取り組みが進められています。
Connected Industriesにおける具体的な取り組みとしては、「自動走行・モビリティサービス」、「ものづくり・ロボティクス」、「バイオ・素材」、「プラント・インフラ保安」、「スマート・ライフ」の5つがあります。この中での代表的なものとしては、「自動走行・モビリティサービス」分野における空飛ぶクルマの実証実験などが挙げられるでしょう。また、「スマート・ライフ」の分野では、自治体と連携してIoT家電からデータを収集することによって、生活の改善のために活用するといった動きがあります。
相互運用性とは、ヒト・モノ・システムなど、工場生産に関わるもの全てをつなぐことを意味しています。
製造機械同士を直接つなぐだけでなく、デジタル技術を活用し、工場内だけでなく各拠点間を結びつけ、綿密な情報共有を行うことを目的としています。
製造機械に取り付けられたセンサーやデバイスを通じ、生産過程で生じた膨大なデータを集めます。その集めたデータは、製品の長所・短所を見つけることで新製品の開発を行ったり、顧客の分析を行ったりと、さまざまに活用することが可能です。しかし、活用しなければ、データの資産価値はなくなってしまいます。
情報透明性とは、それらのデータを誰でも見られるようにし、従業員それぞれがそのデータの活用方法を考えられるようにしておくことを意味しています。
インダストリー4.0では、人の目では難しい情報を集める作業をサポートしたり、人にとって重労働となっている部分を産業ロボットで代替したりすることができます。
それにより、工場の効率化が図れるだけでなく、労働者の安全性を確保し、快適な労働環境を実現してくれます。
分散型意思決定とは、収集したデータをサイバー空間で定量的に分析し、再び現実世界にフィードバックする「サイバーフィジカルシステム(CPS)」を活用し、生産機械が自律的な意思決定を行うことを意味します。
今起きている状況をリアルタイムに反映することができるというメリットがあります。
インダストリー4.0とIoTは密接な関係がありますが、どういった違いがあるのか?と疑問に思っている方もいるのではないでしょうか。ここでは、その違いについて見ていきましょう。
IoTは日本語では「モノのインターネット」と訳されますが、基本的にモノとインターネットが繋がって情報のやりとりをし、必要なアクションを起こすという仕組みを指します。その反面、インダストリー4.0では、IoTを活用して工場内にある機器をインターネットで繋ぎ、工場のスマート化を実現しようとする考え方を指しています。
まず、メリットのひとつとして「工場の完全自動化」が挙げられます。インダストリー4.0を導入することで工場内の機器がそれぞれ繋がり、人が介入する余地が減っていきます。このことにより、発注が入ってから納品までを自動化することも可能であるといえるでしょう。遠隔操作によって状況を確認して指示を出せるようになります。
またビッグデータやAI技術の活用によって、ラインの稼働時間がすぐに確認できるようになるため、生産性の向上を目指すことも可能となるでしょう。これまで人の手で数えていた在庫を、センサーを使用してカウントするといったこともできるようになります。
AIが学習を重ねることによって、今後は工場ラインの調整や稼働率の計算、製造や納品までをこなせるようになると考えられています。
インダストリー4.0が目指すもののひとつに「サイバーフィジカルシステム」と呼ばれる考え方があります。これは、さまざまなデータを集約し、仮想空間のコンピュータシステムで分析を行うことによってものづくりを進化させよう、というものです。
このように、さまざまなデータの集約により、消費者にその製品が届いた時点でどんな使い方がされているのか、またどんな使い方をしたいのかといったような情報も集めることができ、顧客が本当に欲しいものの提供に繋げられるでしょう。
セキュリティや障害への対策を行う必要があります。これは、インダストリー4.0はIT技術を活用しており、ネットワークで繋がっていることから万が一侵入された場合には全ての機器にアクセスできてしまう可能性があります。さらに、どこかで障害が起きてしまった場合には、工場全ての生産ラインがストップすることも考えられます。
このように、万が一セキュリティに関する事故や障害が起きた場合には手動に切り替えるなど対策を行う必要があるといえます。
工場で自動化が進んだ場合、単純な作業は機械が担当できるようになるため、雇用の消失や失業率の増加への対策について検討する必要があるといえるでしょう。例えば、これまで生産にかけていた時間を新しいサービス・ビジネスモデルの提案や構築などに使えれば、さらに発展できる可能性もあります。
このように、インダストリー4.0を推し進めるとともに、生産に携わっていた従業員の配置転換などについても総合的に検討し、従業員が職を失わないようにするといった取り組みが求められることになります。